日光街道と東照宮社参のための日光御成道の通る宿場町幸手。日光街道を北上していくと突き当たる権現堂堤は、春、桜の名所としてにぎわう。
 まずは日光街道と日光御成道の交錯するところの石井酒造(表紙)。天保十一(1840)年創業。和洋折衷の建物は街道沿いにあったものを現地に移築したもの。木造二階建て。洋館は表面を覆うスクラッチタイルで、竣工年を推定できる。昭和三(1928)年築。二階正面壁面の文様が愛らしい。トイレのガラスをはじめ、ドアノブ、洋室回り縁の漆喰の装飾は繊細。トイレは当初から水洗だったというから驚く。こちらには、客、家人、使用人用と三つの階段があり、建物中央の客用の階段を上って二階に。奥の客用の和室。障子の桟も欄間も精緻である。ここで桜を見ながら毎年宴を開くとのこと。こちらの名酒を嗜みながら、ライトアップされた花見はさぞ楽しかろうと想像される。これに欅の柱と格天井が爽快な空間を作り出し、奥にでんと金庫が据えられた店のひろがる木造二階の和館が付設する。
 幸手駅前の道と交差する十字路にあるのは登録有形文化財、岸本家住宅①。木造二階建て。醤油醸造業を営み、パリ万博で銅賞を受賞したこともある老舗の建物。多くの建物を構えた盛時の様子は明治期の「大日本博覧図」にも掲載されている。現在は店の奥に和室四部屋がひろがる一階と二階の主屋のみ。主体部の正面は切り妻、背面は寄棟造りで、寄せ棟造りの屋根を桁行方向に、店舗の寄棟造りの屋根を梁間方向に半分に切断するユニークな形となっている。 江戸時代末期の建築と推定され、カフェが設けられ、街道の目印となっている。
 十字路を過ぎると小島商店。木造二階建て。昭和十二(1937)年築。薪炭商・繭糸商を営んでいた。店の奥は瀟洒な和室二部屋、二階の二間の奥の部屋は重厚な格天井になっていた。
 日光街道沿いの特長である短冊状の敷地では、蔵や倉庫が奥におかれている場合、重い荷物を運ぶのは大変な作業になる。そこで考え出されたのがトロッコで、それを滑らすレールが必要になる。通称「横町鉄道」。問屋場横町の突き当たりの永文商店②。大正十二(1923)年震災後の竣工。木造二階建て。店の奥に和室二間、廊下を巡らす。先代から酒の卸、小売をはじめたという。店脇左手にそのレールがのぞける。建物に平行に伸びかなり長い。今でこそ途中で切れているが、もとはS状に曲がって奥の倉庫まで繋がっていた。戦時中の金属回収の折、残された女性たちが、レールなしでは仕事ができないと訴え回収を免れたという。少し先の成田金物店でもこのレールを見かけた。
 問屋場横町をわたると街道に面した主屋の背後に蔵が連なる豪壮な家が眼に入ってくる。
 平井家住宅③。敷地内の建物は各々竣工した年が異なる。木造二階建ての主屋が大正九(1920)年、木造平屋の離れが大正三(1914)年、文庫蔵が明治四十五(1912)年、米蔵が明治元(1868)年築で、さらに短冊形敷地に物置がつづく。屋号は味噌屋だが二代前までは穀物商を営んでいた。箱階段であがる主屋の二階道路に面した部屋は使用人用だが、奥の和室は廊下を巡らし、手すりを添え、天井には屋久杉を使用。透かし欄間、書院の建具も凝った仕様。陸軍の演習時に将校が宿泊したというのも頷ける。
 飯村医院④。木造二階建て。大正十一(1922)年から十二(1923)年に築。一階天井が非常に高いのが印象的。先代の趣味による植栽の美しい中庭を拝見できた。板塀が見事な関薬局を右側に見ながら進むと向かい側に重厚な木造二階建ての高濱商事⑤。昭和九(1934)年竣工。代々肥料商や穀物商を手がけてきた。店につづいて奥に三部屋、二階に二部屋。これに一階二階ともに三部屋の廊下を巡らし手すりのついた木造二階建ての建物が連なる。敷地内には稲荷社をはさみ、文庫蔵や倉庫の蔵が三棟たつ。
 日光街道から久喜新道に抜けたところのアベ洋品店⑥。街道に面した木造二階建ては昭和十一(1936)年築。もとは菓子製造。店の背後の木造二階建ての住宅は大正三(1914)年築という。広い裏庭には松、サルスベリなど多くの植木が。信仰の厚い先々代は十一もの神様を祀り、その一部が稲荷神社と三峯山の祠となって庭の一偶に。梅の木から見上げる木造二階の住宅は趣のあるものだった。
 向かい側にあるのは小路米店⑦。このあたりは昔、本陣のおかれたところ。昭和十(1935)年築の精米場はなかなかいい。
 問屋場横町の山崎接骨医⑧。木造二階建て。下見板張りの色は三、四年ごとに塗り替えるという。昭和二十二(1947)年のカスリン台風の洪水時には附近のひとが二階にしばらく避難したとのこと。
 近年、看板を外した背後からモダンな外観が姿を現したノグチ堂電機、それにハリウッド化粧品店とレトロ・モダンな建物も散見される。
 地域と共に時を刻んできた社寺も多く、幸手は味わいのある街である。

(広報誌 スマイル通信 Vol.48  2012年7月発行)

 

表紙:石井酒造
表紙:石井酒造
岸本家住宅①
岸本家住宅①
永文商店②
永文商店②
平井家住宅③
平井家住宅③
飯村医院④
飯村医院④
高濱商事⑤
高濱商事⑤
アベ洋品店⑥
アベ洋品店⑥
小路米店⑦
小路米店⑦
山崎接骨医⑧
山崎接骨医⑧

 

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